前年度までに我々は、ヒトメラノーマAKl細胞において、(1)腫瘍壊死因子(TNFα)刺激によるNFκB活性化機構にジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)αが関与すること、(2)このシグナル伝達はプロテインキナーゼCζによるNFκB p65サブユニットのリン酸化を伴い、(3)p65のリン酸化サイトはSer311であることなどを明らかにした。本年度はこれらの知見をさらに詳細に検討した。まずp65において、活性化に伴うリン酸化がSer311以外でも行われているかどうかを調べた。一般にTNFα刺激が与えられたとき、p65はSer311の他にもSer276、Ser468、Ser536のリン酸化を通じて活性化されることが知られている。このうちAKl細胞では、Ser311の他Ser468、Ser536がリン酸化されていた。これらTNFα刺激に応答したp65のリン酸化がDGKαノックダウンにより影響を受けるかどうかを調べたところ、唯一Ser311だけがDGKαノックダウンに伴ってリン酸化レベルを大きく減少させた。したがってDGKαを介したp65の活性化はSer311のリン酸化のみによっていることが明らかになった。次に本シグナル伝達系におけるPKCζの特異性を調べた。イムノブロット法で調べたところ、AKl細胞ではPKCζの他にPKCδ、PKCεというnovelタイプPKCの存在が確認された。しかしこれらPKCアイソザイムをノックダウンしても、TNFαに応答したNFκBの活性化に影響は見られなかった。一方、PCKζをノックダウンするとNFκB活性化は約80%阻害された。conventional PKCがNFκB活性化に関与しないことは既に阻害剤を用いた実験により明らかにされており、したがって、atypical PKCの関与を完全には排除できないものの、本シグナル伝達系にはPKCζが特異的に働いている可能性の高いことが示唆された。
|