本研究の目的は、獲得免疫生体防御に重要な分子である免疫グロブリンと生体防御レクチンであるコレクチン(SP-A、SP-DおよびMBL)の相互作用を解析し、免疫グロブリン機能との関連を明らかにすることである。以下に本年度の研究成果を要約する。 1.マウス骨髄由来マスト細胞およびラット好塩基球細胞株(RBL-2H3)を用いて、IgE依存脱顆粒反応におけるコレクチンの影響を検討した。FcεRIにIgEを結合させた後、抗原で刺激することにより脱顆粒を起こさせた。この反応にSP-A、SP-D、MBLのいずれを加えても、有意な違いは見られなかった。 2.抗NP IgMを結合させた抗体感作ヒツジ赤血球とウサギ補体成分を用いて、溶血反応により補体活性化を測定した。SP-AやSP-Dの添加では20μg/mlまでの濃度で溶血反応に有意な変化は見られなかったが、MBLでは反応がやや低下した。さらにMBL濃度を50μg/mlにすると、溶血反応に顕著な減少が見られた。抗ヒツジ赤血球血清を用いた場合も、MBLによる溶血反応の阻害がみられた。よって、MBLには補体系古典経路活性化を阻害する効果があることが示唆された。そのメカニズムは今後検討する必要がある。この濃度は通常血清中のMBL濃度より高いので、生理的条件化でMBLが補体活性化を制御しているのかは明らかではないが、MBLを補体活性制御へ応用できる可能性を示唆するものである。 3.抗原に結合したIgMとMBLの相互作用を詳しく解析した結果、抗原親和性の高いIgMがエピトープ密度の高い抗原に結合すると、MBLの結合性が低くなることがわかった。これは、抗原に結合したIgMの構造は親和性と抗原密度に依存し、IgMの構造変化がMBLの結合性に反映されていることを示唆する。我々はMBL結合性と同様に、IgMによる補体活性化も親和性の高いIgMが高密度の抗原に結合したときには低くなることを見つけており、MBL結合性との関連は興味深い。今後IgMの抗原結合時における構造変化とその意味について、詳しく解析したい。
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