スフィンゴ脂質は、細胞膜の重要な構成成分であり、多くの場合、脂質マイクロドメインと呼ばれるコレステロールに富む領域を形成している。このマイクロドメインの形成に重要なスフィンゴミエリン(SM)は、セラミドとフォスファチジルコリンから生合成され、その生合成反応を触媒するのがSM合成酵素(SMS)である。現在、この反応に関与するSMSは、SMS1とSMS2の別の遺伝子にコードされた2つの類似した分子があるが、とりわけ生体や細胞レベルでの機能についてはまだ不明なままである。本研究では、SMS1ならびにSMS2のノックアウト(KO)マウスの表現型の解析を通して、これらの酵素の機能ならびに分担について明らかにすることを目的とした。 SMS1ならびにSMS2KOマウスとも、誕生し、成熟期まで成育する。しかしながら、両方の遺伝子を欠損するダブルKOマウスは胎生致死であった。このことから、SMS1ならびにSMS2はそれぞれのKOマウスでは機能相補があると考えられた。SMS2KOマウスは、外観、主要組織において形態的異常は認められなかったものの、SMSlKOマウスは、オスにおいて成育遅延が顕著であり、雄性不妊であった。すでにSMSlとSMS2は細胞内での局在が異なり、SMSlが構成的なSM合成、SMS2が調節的な機能を担っていると考えられているが、表現型の差異からも、これらは生体内で異なる機能を有している事が明らかとなった。SMS1KOにおける雄性不妊は精子形成不全によるものであった。一方、雌性生殖器ではサイズそのものの減少は認められたが、形態学的にも顕著な差がなく、繁殖可能であった。この性特異的な表現型はガングリオシドGM2/GD2合成酵素などの他のスフィンゴ脂質代謝遺伝子のKOマウスでも観察され、精子形成過程に必須かつ特異的なスフィンゴ脂質代謝の存在が示唆された。
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