スフィンゴ脂質は、細胞膜の重要な構成成分であり、多くの場合、脂質マイクロドメインと呼ばれるコレステロールに富む領域を形成している。このマイクロドメインの形成に重要なスフィンゴミエリン(SM)は、セラミドとラォスファチジルコリンから生合成され、その生合成反応を触媒するのがSM合成酵素(SMS)である。現在、この反応に関与するSMSは、SMS1とSMS2の別の遺伝子にコードされた2つの類似した分子があるが、とりわけ生体や細胞レベルでの機能についてはまだ不明なままである。前年度までにSMS1KOにおける精子形成不全が認められたため、その詳細を明らかにするため、組織・分子レベルの検討を行った。KOマウス由来の精巣は有意に小さく、成熟精子を一切認めなかった。そこで、アポトーシスについて、精巣組織切片を用いたTUNEL染色による検討を行ったところ、減数分裂前の精細胞系列で顕著なアポトーシスの亢進が観察された。野生型マウスならびにSMS1KOマウス由来の精巣RNAを用いて、遺伝子発現解析を行ったところ、精原細胞やライディッヒ細胞、セルトリ細胞などに発現する遺伝子群の発現変化は顕著でなかったものの、バキテン期から減数分裂後の精子細胞で発現する遺伝子群においては顕著に低下していた。このことから、SMS1KOでの精子形成不全は、パキテン期における精子形成過程の停止によるもので、スフィンゴミエリン合成が精子形成過程において時期特異的に必須であることを示唆している。また、アポトーシス関連遺伝子ではp53下流遺伝子群の発現が増加しており、当該経路の関与が示唆された。そこでp53KOマウスとの交配により精巣表現型の緩和について現在検討を行っている。
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