バクテリアベん毛モーターの回転運動のメカニズムに迫るため、固定子1個による運動の素過程を解析することを研究目的とし、以下を解析した。 1.高温でのステップ状トルク変化のメカニズム:本研究で発見した温度依存トルクステップは、トルク発生単位である固定子個々の挙動を反映している可能性が考えられる。そこで、加熱条件を変えながら回転計測したところ、トルクステップは、加熱条件にしたがって、単位トルクが減少するものの、単位トルクの最大値は常に、11-13程度であり、1モーター中の最大固定子数と同等であった。この結果は、固定子は回転中であってもダイナミックに結合解離しており、温度制御によって、モーター中の固定子数を制御できることを示唆している。 2.細胞内イメージングによるモーター構成タンパク質および膜電位ダイナミクスの解析:固定子のダイナミクスとトルク発生のメカニズムをさらに探るため、GFP融合タンパクや膜電位依存性色素を用いて、細胞内イメージング実験を行った。膜電位は、40℃までほぼ一定となったが、40℃以上に加熱した場合に減少し、回転計測時に見られた単位トルクの減少と同じ傾向を示した。また、GFP融合タンパクとして発現させた固定子を全反射顕微鏡で観察したところ、蛍光強度のステップ状変化を検出した。蛍光強度の変化は、退色による減少の可能性も含まれるが、ナトリウムイオン濃度変化に応じた上昇も観察されたため、固定子の結合解離を反映していると思われる。さらには、温度制御時における回転運動と膜電位の同時計測、また回転運動とGFP融合固定子ダイナミクスの同時計測を試みたが、同期情報の検出は今後の課題となった。
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