研究概要 |
セレン(Se)はヒトを含め多くの生物の生存に必須の微量元素であり、細胞内では主にセレノシステイン(Sec)とよばれるアミノ酸として一部のタンパク質に取り込まれたかたちで存在している。Secは21番目のアミノ酸として知られており、リボソーム上で遺伝暗号にしたがってタンパク質に取り込まれるが、20種類の基本的なアミノ酸とは異なり、固有のタンパク質群をもちいてtRNA上で合成され、セレン含有タンパク質の遺伝子中の終止コドン(UGA)をSecコドンに読みかえて正確に挿入される。 このユニークなSec生合成・挿入の構造基盤を明らかにするために、それに関与するタンパク質およびタンパク質複合体の結晶化・構造解析を行った。超好熱性細菌Aquifex aeolicus由来のSec合成系タンパク質であるセレノシステイン合成酵素(SecS),セリルtRNA合成酵素(SerRS),セレノシステイン特異的延長因子(EF-Sec)について、タンパク質を結晶化し、構造解析に成功した(投稿準備中)。このうち、SecSは分子量50万の巨大な十量体複合体であり、5回対称のリング構造をとっていることが明らかになった。SecSについては、さらに、セレノシステインtRNA(tRNASec)との複合体の結晶化に成功し、現在結晶化条件の最適化を試みているところである。また、古細菌由来のSerRSとtRNAsccとの複合体の結晶化にも成功し、構造解析を行っている(未発表)。 また、ヒト由来tRNAsecの結晶解析にも成功した(投稿準備中)。tRNAsecは、通常のtRNAと異なる特徴をもったサプレッサ-tRNAで、Sec生合成経路で中心的な役割を果たすが、その立体構造は未解明であった。複数の生物種由来のtRNASecについて結晶化を試み、ヒト由来のものについて3.1A解能で構造決定することができた。
|