研究の目的 本研究は、蛋白質フォールディングの物理化学的機構を解明し、特に中間体の役割を明らかにすることを目標としている。モデル蛋白質スタフィロコッカル・ヌクレアーゼ(SNase)について、フォールディングの速度論や安定性を詳細に検討し、その機構を定量的に明らかにする。 研究内容 1.蛍光ラベル変異体の特徴付け:F34W/W140H(W34)およびV66W/W140H(W66)SNaseについて、5チオ2ニトロ安息香酸(5-thio-2-nitrobenzoic acid ; TNB)ラベルした変異体を作成した。W34 SNaseについては、Y85とK127に、W66 SNaseについては、K16とK134にそれぞれシステイン(Cys)を導入し、これらの部位をTNBでラベルした。すべての変異体について、平衡論的中間体を蓄積することがわかった。中間体においてトリプトファン(Trp)とTNBとの距離は天然状態における距離と同程度であり、中間体がコンパクトであることを示唆した。TNBラベル変異体作成に際して、Cysを導入するだけで不安定性が認められた。これはラベル導入のホスト蛋白質である単一Trp変異体自体が、野生型蛋白質に比べて不安定化していることに起因する。野生型は多くの場合充分安定で、分子表面、特にループ領域などにCysを導入することによる不安定化による影響は実質上ない。この単一Trp変異体の不安定性に対処するために、より安定な単一Trp変異体を作成することとした。 2.より安定な蛍光ラベル単一Trp変異体の作成と評価:1.で示されたように、安定な単一Trp/Cys変異体を得ることが必須である。このため、F76W/W140H(W76) SNaseのTNBラベル変異体を作成中である。システイン導入部位としては、S3、K45、Q123を想定している。これまでに組換え体の発現・精製まで終了した。今後平衡論および速度論測定を行う。
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