本研究では、「シグナル分子が集積し働く場」「情報変換のプラットフォーム」として注目されている細胞膜中のラフトについて、(1)ラフトの動的構造を物理的観点から明らかにすること、(2)誘導ラフトがシグナル変換のプラットフォームとしてはたらく機構を明らかにすること、を目的としている。CD59(GPIアンカー型タンパク質)の関わるシグナル伝達機構を、我々の開発してきた1分子観察/操作法を用いて検討している。本研究では、 (1)ラフト領域形成における「脂質と脂質アンカー型の受容体の協同的な相互作用」についての仮説を検証するために、細胞外からシグナル入力のないときにおいて様々なGPI-アンカー型受容体の会合数を1分子観察により定量的に見積もってきた。そのために今年度、非常に低レベルで発現しているGPI-アンカー型受容体を非常に高効率で蛍光色素などでラベルする実験系を確立した。また、もともと天然に存在している受容体だけではなく、GPI-アンカー部分(糖脂質部分)を貫通型タンパク質に変えることで液晶相に分配される構造に変えたキメラタンパク質についても調べた。結果、GPI-アンカー型受容体は150ミリ秒ほどの寿命をもつ2量体をGPIアンカー依存的に、またコレステロール依存的に形成することが世界で始めて明らかとなった。 (2)ラフト領域形成における「前駆ラフトから誘導ラフトが形成される機構の解明」を行うために、GPI-アンカー型受容体の会合体への他のラフトマーカーのリクルートを観察するが、今年度これらラフトマーカーの蛍光ラベルプローブの作成に成功した。今後、これを1分子観察に用いる。
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