高度好熱菌Thermus thermophilusのインテグレーションベクターを用いて、ATP合成酵素の一つのサブユニットにヒスチジンタグを付加した酵素を発現する好熱菌株を作製した。その好熱菌株をジャーファーメンターにより大量培養し、菌体膜の可溶化後、ニッケルアフィニティーカラムクロマトグラフィーおよび陰イオン交換カラムクロマトグラフィーによりATP合成酵素を調製した。その精製酵素を用いて酵素の速度論パラメータの測定および1分子観察技術によるATPおよびADPの結合速度定数を見積った。その結果、ATPの無駄な消費を抑えるメカニズムを見出すことができた。同様に高度好熱菌から膜蛋白質複合体であるポリスルフィドレダクターゼを調製し、結晶化および構造解析に寄与した。このように高度好熱菌のインテグレーションベクター系が複雑なサブユニット組成をとる膜超分子複合体の解析に有効であることを改めて示すことができた。また、呼吸鎖複合体Iにヒスタグを付加し、その複合体の可溶化と精製系を構築した。現在結晶化の条件検討を行っている。さらにこの系を線毛伸縮装置複合体に適用するため、線毛構造タンパク質の成熟化に必要なPilDタンパク質にヒスチジンタグを付加した。抗ヒスタグ抗体を用いたウェスタンブロッティング解析を行ったところ、非特異的なバンドが多く、目的のPilDタンパク質を検出することができなかった。この原因は上記のATP合成酵素とは異なり、PilDタンパク質の発現量が低いためと思われる。今後、好熱菌の発現系をより多くの種類のタンパク質に適用するため、タンパク質の発現量を上げるためのベクターの改良や特異性の高いタグ-抗体システムを用いる必要がある。
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