最近の研究から、熱ショック転写因子HSF1は、熱ショック蛋白質Hspの発現誘導だけでなく、正常な個体の発生や維持に必須であることがわかってきたが、その分子機構は不明である。申請者らは、HSF1がクロマチンの構造変化を引き起こすことによってIL-6遺伝子の転写制御を行うという新しい分子機構を明らかにした。本研究では、その成果をさらに発展させ、HSF1がIL-6をはじめとする発熱・炎症に関わるどのような遺伝子群の発現制御に関わっているか網羅的に探索し、その転写制御機構を明らかにするとともに、その生理的意義を解明することを目的とする。 1)HSF1によって発現制御を受ける発熱・炎症に関わるサイトカイン遺伝子群の網羅的探索。 MEFを用いたDNAマイクロアレイ解析の結果、LPS誘導性遺伝子116の内、約90%の遺伝子が温熱ストレス処理で発現が抑制された。また、温熱ストレスで誘導される4つの転写因子のうちATF3の誘導は、HSF1に依存することがわかった。 2)HSF1による転写制御の分子機構の解析 1)で同定した遺伝子群には、ATF3を介して発現が抑制される遺伝子17つと、ATF3に依存しない遺伝子8つがあることをRT-PCRにより同定した。また、この17遺伝子のうち9つはHSF1に依存して制御されていること、さらにその内、IL-6を含む6つの遺伝子はHSF1によるクロマチン制御によって発現が調節されていることがわかった。 これらのことは、HSF1が発熱・炎症に関わるサイトカイン遺伝子の発現制御に深く関与していることが示す。
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