出芽酵母において活性酸素種の量に応じて酸化損傷塩基除去酵素Ntg1によって導入された複製開始点での二重鎖切断は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の相同対合を促進する酵素Mhr1の機能を介してローリングサークル型DNA複製の開始を誘起する。核では、DNAの組換えを誘起する二重鎖切断部位が5'-3'エキソヌクレアーゼ、及びヌクレアーゼとヘリカーゼとの共同作用によって形成される。ミトコンドリアでは、組換えを誘起するmtDNAの複製開始部位での二重鎖切断の形成にNtg1とともに働く因子群が未同定である。本年度は、ミトコンドリアに局在する5'-3'エキソヌクレアーゼをコードするDIN7遺伝子、MHR1遺伝子の単一変異体、及び二重変異体において、野生型mtDNAより優位に複製するという超抑制現象(Hypersupressiveness)を引き起こすmtDNAの複製開始点での二重鎖切断が顕著に増加することを見出した。これは、DNAの組換え能の低下がもたらした二重鎖切断修復欠損によるものと考えられる。また、5'-3'ヘリカーゼをコードするPIF1遺伝子、及びATP依存型3'-5'ヘリカーゼをコードするHMI1の欠損変異株においてmtDNA複製開始点での二重鎖切断が顕著に減少することから、ヘリカーゼが複製開始点での二重鎖切断部位の形成に働くことが判明した。さらに、mtDNAのコピー数の維持、及びmtDNAのHypersupressivenessにPif1が必要なこと、及びHmi1がMhr1に依存するローリングサークル型複製によるコンカテマーの合成に働くことを明らかにした。これらの結果は、ミトコンドリアに局在するヘリカーゼが組換えを介したmtDNAの複製、修復、及び分配に欠かせないことを示唆した。
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