RP58は発生期大脳皮質に強く発現する転写抑制因子で、そのノックアウトマウスの解析から大脳皮質の形成に重要な働きをしていることがわかっているが、その機能や実際の標的遺伝子については不明であった。本研究ではRP58が直接大脳皮質形成時にその転写を抑制している遺伝を同定するためにE16の野生型とRP58ノックアウトマウス脳からRNAを単離してマイクロアレイ解析を行いいくつかの候補遺伝子を同定した。その中には細胞外基質糖タンパクであるLTBP-2や神経栄養因子の受容体Gfra3、カルシウム結合蛋白であるカルレチニンなどがあるが、転写活性化因子で神経分化に機能しているNgn2もその一つである。実際に定量PCR及びin situハイブリダイゼーションでノックアウトマウスで発現が上がっていることも確認した。一方Ngn2はRP58の転写を上げることが報告されているため、実際にはまずNgn2がRP58の発現を誘導し、誘導されたRP58が逆にNgn2の発現を抑制するいわゆる負のフィードバッック制御の存在が示唆された。そこでこれを確かめるために、プロモーターをルシフェラーゼにつないだコンストラクトを用いてレポーターアッセイを行い、Ngn2はRP58のエンハンサー活性を、またRP58はNgn2のプロモーター活性を抑制することがそれぞれ明らかになった。また、培養下の神経細胞を用いたトランスフェクション実験でも上記の関係が見られることが抗体染色で明らかになった。このことからRP58はNgn2が神経分化過程で一過的に発現することを可能にし、このことが正常な大脳皮質形成時の神経細胞分化にとって重要であることが示唆された。
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