これまでに、出芽酵母において、細胞膜におけるホスファチジルエタノールアミン(PE)およびホスファチジルセリン(PS)の外層-内層間の移行が極性形成の制御と関わっていることを見いだしている。昨年度までに、細胞膜のリン脂質フリッペース調節サブユニットの変異株(1em3Δ)のPapuamideB感受性を過剰発現で緩和する遺伝子の探索を行い、細胞膜に局在する膜タンパク質をコードするSFK1遺伝子を同定した。今年度は、このSFK1の機能について解析を行い、以下のことを明らかにした。1)SFK1変異株(sfk1Δ)では、リン脂質アナログNBD-リン脂質の細胞膜でのフリップ活性が野生型株より上昇しており、またこのフリップ活性はATP非依存的な活性を含んでいる。2)1em3Δ変異により生じる過剰に極性化した形態異常は、SFK1遺伝子の過剰発現でも、sfk1Δ変異のどちらによっても抑圧される。3)1em3Δ変異株で見られる、PEの芽の先端部での外層への蓄積は、SFK1遺伝子の過剰発現により消失し、sfk1Δ変異により、芽の先端部のみでなく、細胞全体で観察されるようになる。4)sfk1Δ変異は、1em3Δ変異株の種々の薬剤の生育許容濃度を著しく低下させる(より感受性にする)。5)sfk1Δ 1em3Δ二重変異株は、野生型株に比べ細胞膜の流動性が高い。これらのことから、SFK1遺伝子産物Sfk1は、細胞膜においてフリッペースと関連して機能し、膜の性質変化(流動性や透過性)を制御する因子である可能性が示唆された。本研究で得られた知見は、リン脂質の層間輸送が膜の物性に関与するということも示唆しており、膜の物性と極性形成についての関わりを今後さらに明らかにする手がかりとなると期待される。
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