研究概要 |
我々は線虫C.elegansをモデルとして,多細胞生物におけるエンドサイトーシスの分子メカニズムについて解析を進めている.線虫の卵母細胞による卵黄の取り込みはレセプターを介したエンドサイトーシスによって行われており,哺乳類細胞の低密度リポタンパク質(LDL)の取り込みと類似のメカニズムであることが知られている.このC.elegansの卵に蓄えられる卵黄成分はLDLとよく似た性質をしており,卵母細胞によって細胞外から取り込まれ,発生の際の栄養素として蓄えられる.そこで本年度は,これまでに分離されている卵母細胞による卵黄の取り込みに異常を示すrme変異株のうち,rme-3変異株の解析を行った.rme-3(b1025)変異株は,高温では卵黄タンパク質の取り込みに異常を示し,胚性致死となった.解析の結果,このrme-3(b1025)変異株はクラスリン重鎖に変異を持つ温度感受性変異株であることが判明した.この変異株では,クラスリンのタンパク質量が野生株の5%未満になっていた.興味深いことに,rme-3(b1025)変異株を制限温度において培養後,連続運動させると麻痺症状を示すことから,卵母細胞だけではなく神経伝達にも異常があることが明らかとなった.しかしながら,rme-3(b1025)変異株においてシナプス小胞の大きさは減少するものの,クラスリン量が低下してもシナプス小胞の数は変動しないことから,シナプス小胞の形成自体には少量のクラスリンで十分であることが明らかとなった.一方,rme-3変異と神経シナプスにおける3量体Gタンパク質を介したシグナリング系におけるドミナントアクティブ変異を組み合わせると,運動障害が回復することから,このrme-3変異株では神経シナプスにおけるシグナリング経路に異常が生じていると考えられる.
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