研究概要 |
HB-EGFはEGFファミリーに属する増殖因子である。我々はこれまでのHB-EGFノックアウト(KO)、非切断型変異HB-EGFノックイン(UC)、あるいはヘパリン結合領域欠失変異HB-EGFノックイン(△HB)マウスなどの変異マウスを用いた解析から、これら変異マウスはいずれも発生段階において心臓弁の著しい肥厚症状を呈し、この肥厚は後期リモデリング過程での弁間質細胞の増殖昂進によるものであることを明らかにしている。これらの結果から分泌型HB-EGFは心臓弁形成過程、特に後期リモデリング過程において、間質細胞の増殖を負に制御しており、この過程ではHB-EGFとHSPGsとの相互作用が必須であるということが示唆される。そこで本研究ではこれまで「増殖促進因子」であると考えられてきたHB-EGFが、いかにして心臓弁間質細胞の増殖を抑制しているのか、その分子機構について明らかにすることを目的としている。平成20年度は、マウス心臓弁形成過程をex vivoで検証する実験系の確立(cushion explant培養系)をおこなった。この実験系によって以下のことを明らかにした。1)KO,UC,△HB explantではいずれも野生型よりも間質細胞の増殖性が昂進していた。2)野生型HB-EGFに比べて△HBではKOの間質細胞の過増殖性の抑制(レスキュー)能力が低かった。3)野生型explantにおいてHB-EGFとHSPGsとの相互作用を阻害することで間質細胞の増殖性が昂進した。4)野生型explantにおいてEGFR阻害剤を作用させると間質細胞の増殖性が昂進した。以上の結果より、心臓弁形成過程におけるHB-EGFによる間質細胞の増殖抑制にはHB-EGFとHSPGsとの相互作用が必須であり、この過程ではHB-EGFによるEGFRシグナルの活性化が関与していることが示された。
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