HB-EGFはEGFファミリーに属する増殖因子である。我々はこれまでのHB-EGFノックアウト(KO)マウス等の各種変異マウスを用いた解析から、これらHB-EGF変異マウスはいずれも発生段階において心臓弁の著しい肥厚症状を呈し、この肥厚は後期リモデリング過程でのHB-EGF機能欠失による弁間質細胞の増殖昂進の結果であることを明らかにしている。これらのことからHB-EGFは心臓弁形成過程、特に後期リモデリング過程において、間質細胞の増殖を負に制御していることが示唆される。そこで本研究では、これまで増殖促進因子であると考えられてきたHB-EGFが、いかにして心臓弁間質細胞の増殖を抑制しているのか、その分子機構を明らかにすることを目的としている。平成21年度は、HB-EGFによる弁間質細胞の増殖抑制における、HB-EGFの受容体のひとつであるEGF受容体(EGFR)の関与・機能に焦点を当てて解析を行い、以下のことを明らかにした。1)Cushion explantを用いた弁間質細胞初代培養系において、野生型explantに対して、EGFR阻害剤は低濃度で間質細胞の増殖を促進したが、高濃度では逆にこれを抑制した。一方HB-EGF KO explantに対して、EGFR阻害剤は間質細胞の過増殖を抑制した。2)野生型あるいはHB-EGF KOの胎仔心臓弁におけるEGFRおよびその下流のERKの活性化を免疫組織化学法で検証したところ、いずれも野生型に比べてHB-EGF KOでより活性化が昂進していた。3)HB-EGF KOとWaved-2(EGFR活性低下変異)マウスとの二重変異体では、HB-EGF KO単独変異よりも弁肥厚の程度が軽減されていた。以上の結果から、弁間質細胞においてEGFRは、HB-EGFによる増殖抑制に寄与しているのみならず、HB-EGF欠損時の増殖促進にも寄与していることが明らかとなり、心臓弁発生過程の間質細胞の増殖制御にはHB-EGFによる負の制御と他のEGFRリガンドによる正の制御が拮抗していることが示唆された。
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