研究概要 |
HB-EGFはEGFファミリーに属する増殖因子である。我々はこれまでのHB-EGFノックアウト(KO)マウス等の各種変異マウスを用いた解析から、これらHB-EGF変異マウスはいずれも発生段階において心臓弁の著しい肥厚症状を呈し、この肥厚は後期リモデリング過程でのHB-EGF機能欠失による弁間質細胞の増殖昂進の結果であることを明らかにしている。これらのことからHB-EGFは心臓弁形成過程、特に後期リモデリング過程において、間質細胞の増殖を負に制御していることが示唆される。そこで本研究では、これまで増殖促進因子であると考えられてきたHB-EGFが、いかにして心臓弁間質細胞の増殖を抑制しているのか、その分子機構を明らかにすることを目的としている。平成22年度は主に、HB-EGFによる心臓弁間質細胞の増殖抑制におけるEGFR下流シグナルに焦点を当て、cushion explant培養系を用いた解析を行った。野生型のexplant培養系に種々のシグナル分子に対する阻害剤を添加し、間質細胞の増殖に与える影響を検討したところ、EGF受容体(EGFR)阻害剤ZD1839、JNK阻害剤SP600125、及びp38MAPK阻害剤SP600125が間質細胞の増殖を昂進させた。一方、MEK阻害剤PD98059、あるいはPI3-kinase阻害剤LY294002は間質細胞の増殖に影響しなかった。これらの結果から、HB-EGFによる間質細胞の増殖抑制には、HB-EGFの受容体としてのEGFRと、その下流でJNK及びp38MAPKのシグナル経路が関与していることが示唆された。また、昨年度の解析によって示唆された、HB-EGFKOの心臓弁間質細胞増殖昂進における他のEGFRリガンドの関与の可能性についてさらに検討を進め、野生型explantにおけるHB-EGF以外のEGFRリガンドの発現をRT-PCR法によって検出したところ、HB-EGF以外にEGF, epiregulin,及びamphiregulinの3種の発現が認められ、心臓弁発生過程において、同じEGFRを介したこれら3種のEGFファミリー増殖因子による増殖促進シグナルがHB-EGFによる増殖抑制シグナルと拮抗していることが示唆された。
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