研究概要 |
免疫グロブリンスーパーファミリー(以下IgSF)およびプロトカドヘリン(以下Pcdh)分子群は、高次神経系を中心に発現し脳・神経回路形成関わる細胞接着分子である。しかし、IgSFとPcdhにはさまざまなバリアント分子が存在し、さまざまな他分子とのリガンド結合特性を備え、脳発生過程・回路網形成において微妙な生理機能を示し、解析が難しい。特にこれら細胞膜タンパク質の機能解析のための発現系はネックとされていたが、カイコバキュロ発現系は発現効率の高さ、正確な翻訳後修飾と正しいトポロジー発現から非常に有効であることを示してきた。1)マウスPcdh1,Pcdh15に加え、CNRクラスター型Pcdhに分類されるPcdhα1,Pcdhα5、Pcdhγ、原始的PcdhとしてプラナリアDjPcdh1,DjPcdh2の全長発現を行った。カイコ細胞膜表面にバキュロ発現系を用いて発現し、この細胞の凝集活性からの結合活性解析を進めた。Pcdhα1,Pcdhα5、Pcdhγはホモフィリックな結合活性を備えていること、しかし非常に弱いホモフィリック結合活性も持つこと、DsCAM分子の発現からは、マウス、プラナリアともにホモフィリック結合活性があり、原始的なプラナリアDsCAMは活性が高かった。さらにプラナリアには哺乳類にみられるようなスプライシングバリアントがなく、ドメイン構成も哺乳類のタイプ配列をそのまま維持しつつホモフィリックに結合すること、それは細胞外基質で制御されていることが明らかとなった。2)おもにはIgSFは細胞外基質コンドロイチン硫酸プロテオグリカンなどがリガンド機能や調節を果たしていることが知られている。我々は上記のシンプルな発現と結合活性系の解析を進める中で生体内in vivoとの整合性が取れないものを見出すに至り、コンドロイチン硫酸基の転移酵素CsGalNacT-1&T-2のノックアウトマウスの解析を開始した。これら酵素の欠損によって大脳皮質の肥厚が停滞すること、さらには骨形成にも胎生期に異常が見られることを報告した。大脳においてはおもに視床-皮質回路の異常がE16以降にみられ、この領域でのIgSFの発現にも異常をきたしていることを見出した。これらマウスCsGalNacT-1&T-2のヘテロ・ホモ・ダブルノックアウトマウスでそれぞれコンドロイチン硫酸基の減少程度が段階的であること、神経初期発生の解析時期では致死ではなく組織化学的・初代培養レベルで神経接着分子と細胞外基質リガンド機能を研究するには非常に強力な解析手段となることを示すことができた。
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