細胞質に存在するRNA粒子は、特定のmRNAの輸送と翻訳を制御することによって、神経細胞におけるシナプス可塑性や増殖細胞におけるストレス応答に関与する。我々はこれまで、神経細胞RNA粒子の構成因子として新規RNA結合タンパク質RNG105を同定し、その解析をおこなってきた。 本年度は、RNG105のパラログであるRNG140を同定し、RNG105とRNG140が神経細胞および増殖細胞でどのような局在性と刺激応答性を示すかについて比較解析をおこなった。RNG105とRNG140は以下の点で大変良く似た性質を持つことが分かった。すなわち、mRNAに結合して翻訳抑制活性を持つ点、RNA粒子の形成を誘導する点、脳に最も発現が高く、神経樹状突起に局在し、一部はシナプス付近に局在する点、神経細胞でノックダウンすると、シナプスおよび樹状突起の発達が低下する点である。しかし、RNG105とRNG140が形成するRNA粒子は、お互いを排除し、構成因子も異なることから、別の種類のRNA粒子であることが分かった。さらに、増殖細胞に酸化ストレスを与えるとRNG105粒子は形成が誘導されるのに対し、RNG140粒子は全く形成が誘導されないことが分かった。また、神経細胞におけるRNG105およびRNG140のノックダウンは、それ自身の遺伝子発現によってレスキューされるが、それぞれお互いの遺伝子発現ではレスキューされなかった。以上の結果から、RNG105とRNG140は異なるRNA粒子に局在し、異なるパスウェイで機能することが示された。特に、ストレス応答に関しては、RNG105が関与し、RNG140は関与しない機能が存在することが示唆された。
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