研究概要 |
研究実施計画において予定した、神経膠腫細胞浸潤に対するArf6ユビキチン化の寄与の検討の前提として、神経膠腫細胞浸潤に対するArf6の寄与を、Arf6発現と浸潤活性が高相関するC6細胞においてレンチウイルスベクターを用いたArf6ノックダウンにより検討した。その結果Arf6ノックダウンによる浸潤性抑制効果が確認されたが、乳がん細胞における結果と異なり、その抑制効果は50%程度に留まった。このことは、C6細胞においてArf6の発現亢進がその浸潤性の一因であるとは考えられるものの、他の要因の存在をも強く示唆している。そこで、発現亢進したArf6とともにC6細胞に高浸潤性をもたらす因子を検索し、C6細胞において高い発現が認められるNG2に注目した。上記と同様の方法でNG2のノックダウン下における浸潤活性を測定したところ、90%を超える抑制効果が観察された。 一方、神経膠腫の起源は星状細胞であるというのが一般的な理解である。星状細胞は多くの機能を果たしながらも正常脳実質内における運動性という点では極めて静的であることが知られている。神経膠腫細胞との比較対照として正常成体ラット脳より星状細胞を調製して初代培養し、そのArf6,NG2発現と浸潤性の相関についても検討した。初代培養星状細胞のArf6およびNG2発現レベルはC6細胞に比して著しく低かったが、驚くべきことに、Matrigel invasionアッセイにおける浸潤活性はC6,SF268ら高浸潤性細胞と同等であった。このことはすなわち、星状細胞は潜在能力として高い浸潤性を保持しながらも、正常成体脳実質内ではその活性が抑制的制御を受けておりin vivoでの浸潤においてはArf6やNG2の発現亢進などの変化が「脱抑制」機序として働く可能性があることを示唆している。 しかしながら、昨年度において報告したように、Arf6発現亢進は全ての神経膠腫細胞において見られる事象ではなく、このことはNG2においても同様である。よってこれら二因子の発現亢進は神経膠腫悪性化の一因足りえても、普遍的な要因とはいえない。そこで、初代培養ラット星状膠細胞を比較対象とし、神経膠腫細胞群において共通な浸潤関連因子を検索して候補分子を得た。そのノックダウンおよび阻害剤による処理によって種々の神経膠腫細胞の浸潤性が抑制できたことから、本因子を標的とした浸潤抑制治療薬の開発が可能ではないかと考え、論文発表に先立ち特許出願を行うことを企画し、出願を完了した。
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