本研究はArf6活性の微細制御の生体における重要性を、正常上皮組織構築およびその破綻としての病態との比較において解明することを企図していた。研究代表者の異動に伴い、当初の意図との整合性の保持に留意しつつ研究内容に修正を加え、このたび研究期間の満了を迎えた。当初モデル系として想定していた乳腺および乳がん資料を取り扱うことが異動により困難となり、代わって神経膠腫細胞の浸潤を解析対象とした。神経膠腫細胞浸潤は、他のがんの浸潤と同様に当該疾患の脅威の中核をなすが、とくに本疾患においては外科的切除をかいくぐる潜行性の浸潤が深刻な問題となっている。本研究の結果以下に示す知見が得られ、すでに特許申請や学会発表等にいたっており、さらにこれらの成果をまとめた論文を投稿準備中である。 1.神経膠腫細胞浸潤においては、先に明らかにされている乳がん細胞浸潤と異なり、Arf6依存的な浸潤に加えてArf6非依存的な浸潤様式が存在する。 2.この認識に立脚することにより、より広範な神経膠腫細胞浸潤に寄与する因子としてナトリウムイオン/プロトン交換輸送体1(NHE1)を見出した。かつその阻害剤が神経膠腫細胞浸潤抑制に有効であることを見出した。 3.重要なことに、Arf6依存的浸潤を行う神経膠腫細胞においてはArf6シグナル系とNHE1シグナル系は並立して寄与しており、両シグナルを併せて阻害することでより効果的な浸潤抑制が可能であることが判明した。 4.神経膠腫細胞浸潤においてArf6と共役する因子として、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンであるNG2を見出した。すなわちNG2ノックダウンにより顕著な神経膠腫細胞浸潤抑制が見られるが、このときArf6活性の上昇を観察した。高浸潤活性下ではNG2の下流でArf6 GAPが機能しているか、Arf6 GEFの抑制が行われている可能性が示された。 今後これらの知見に基づいたin vivoにおける神経膠腫浸潤の制御を日指し、現在in vivo神経膠腫潜行性浸潤のモデルを構築中である。
|