哺乳類に由来する正常細胞は細胞の分裂とともに代謝活動による活性酸素や環境ストレス等に起因するDNAの損傷の蓄積や、また種によってはテロメア配列の短小化などによりセネッセンス(senescence)と呼ばれる不可逆的な細胞増殖停止が起こり老化する。このセネッセンスによる老化を乗り越えた場合に細胞は不死化し、続いて癌化が起こると考えられている。この細胞老化と共に発現量が増大し、不死化や癌化で減少するタンパク質に細胞増殖抑制因子のp16ink4aがある。我々はクロマチン構造制御因子であるJdp2(Jun dimerization protein 2)のノックアウトマウス由来の胎児繊維芽細胞(Jdp2-/-MEF)が野生型のもの(wtMEF)より長期間経代培養が可能であることを発見し、JDP2がセネッセンスに何らかの関わりがあるものと考え遺伝子発現を比較したところ、JDP2の非存在下ではp16ink4aの発現が抑制されていた。反対にJDP2を強制発現させるとp16ink4aの発現量の増加が認められた。更に詳細に解析を進めると、JDP2はゲノム上のp16ink4aの遺伝子座近辺に結合し、ヒストンメチル化酵素を排除することにより周囲のヒストンH3のリジン27残基のメチル化を阻害し、エピジェネティックな効果によりp16ink4aの発現を促進させていることがわかった。また、癌細胞特異的なp16ink4a転写調節領域のDNAメチル化はJdp2-/-MEFでは認められなかったことから、JDP2の欠失は癌化の促進ではなく老化の遅延を引き起こすと考えられる。以上よりJDP2はp16ink4a細胞老化のシグナル伝達系に関与することがあきらかになり、老化のメカニズム解明の一助になると共にshRNAを用いたJDP2の発現抑制による脱老化など細胞工学上の応用も期待される。
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