研究概要 |
哺乳類由来の正常細胞では、経代と共に環境ストレスに応答して細胞周期抑制因子であるp16Ink4aとArfの発現が上昇し、セネッセンス(senescence)と呼ばれる不可逆的な細胞増殖停止に至る。これは生物個体における老化機構の一部と考えられており、これらの因子の発現が抑制されるとセネッセンスを乗り越えて細胞は不死化し、続いて癌化が起こると考えられている。我々はクロマチン構造制御因子であるJdp2(Jun dimerization protein 2)がp16Ink4およびArfの遺伝子座のヒストンメチル化を制御し、p16Ink4aとArfの発現増大を介して細胞増殖に対して抑制的に働くことを発見し、国際査読誌に報告した。JDP2を強制発現させると細胞増殖は阻害されるが、shRNAによりp53およびRbタンパク質の発現を同時に抑制させるとJDP2による細胞増殖抑制効果が消失する。なおp53やRbタンパク質の片方のみの発現を抑制した場合では、JDP2は細胞増殖を抑制できた。これらよりJDP2による細胞増殖阻害にはp53とRb両経路が必要十分であることが示唆され、またこのことは、p16Ink4aとArfがp53,Rb両経路を介して細胞増殖を制御することを考慮に入れると、以前に報告したJDP2によるp16Ink4aとArfの発現制御による細胞増殖抑制機構とよく符合している。また低酸素条件下で酸化ストレスを軽減した場合では、JDP2強制発現による細胞増殖抑制が認められなくなることから、JDP2は酸化ストレスより受けるシグナルを細胞内に伝達する何らかの役割を担っているものと考えられる。以上を踏まえてストレス応答性の細胞老化メカニズムを解明していくとともに、shRNAなどによるJDP2の発現制御による脱老化など細胞工学上の応用も視野に入れて研究を進めていく予定である。
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