臓器・組織に脳からの指令を伝える神経系と酸素や栄養を運ぶ血管系は目的は異なるものの、どちらも体のすみずみまでネットワークを張りめぐらせる器官である。これらのネットワークは、ある程度の冗長性と可塑性をもちながら「ステレオタイプ」と表現される、マクロ的には定まったパターンであるが、細部では個体ごとに異なる自由度の高い形態をもって発生する。本研究では血管系と神経系の発生に共通した分子メカニズムを明らかにすることで、遺伝情報がどのようにしてステレオタイプなネットワーク網の形成を実現するのか、という問題の理解をめざしている。 血管・神経のネットワーク形成に異常を引き起こすゼブラフィッシュ変異系統のポジショナル・クローニングを行い、そのうちの1つの系統でコレステロール合成系路の異常が神経と血管の両者に発生異常をもたらすことを明らかにした。さらにこの経路上の代謝産物の解析から、代謝中間体より派生するゲラニル・ゲラニル産物の存在が血管の発生に必須であることを見いだし、これによってプレニル化を受ける機能タンパクがその作用を担うことを予測した。ゲラニル・ゲラニル基をタンパクに付与する酵素にはI型、II型の2種類が知られ、それぞれ標的となるアミノ酸配列が異なっている。これらの遺伝子のノックダウン実験より特にII型の付加酵素が必須であり、これによって活性化をうけるrabファミリー遺伝子群が血管の発生に重要な役割を持つことを発見した。今後はこれらの遺伝子群の血管発生における機能を解析していく予定である。
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