研究概要 |
キノコ体はショウジョウバエにおける学習、記憶の中枢として機能している。これまでに、キノコ体の形成と可塑性を支える遺伝子網の理解を目的に、マイクロアレーによる発現遺伝子の体系的解析を行い,キノコ体神経構造に異常を誘起する遺伝子について解析を行ってきた。21年度は、これらの中で特に幼虫期キノコ体の中心繊維で強い発現を示すunc-51遺伝子に焦点を当て、分子遺伝学的解析を行った。unc-51は、セリン・スレオニンキナーゼをコードする進化的に保存された重要な神経発現遺伝子の一つであり、脊椎動物においても神経形成機構に重要な役割を果たしていることが示唆されている。三齢幼虫の脳に対して抗体染色を行った結果、キノコ体軸索東の中心層でUNC-51タンバク質の強い発現が確認された。さらに、unc-51機能欠失変異体による解析により、UNC-51がキノコ体神経軸索の束形成や樹状突起伸長を制御する事を発見した。加えて、胚の腹部神経節々成虫の触角葉投射神経においても同様な神経形成異常を観察する事ができた。さらに、unc-51変異体では、Fas II, Synaptotagmin, Rab5, LAMPなど様々な分子の細胞内局在に異常がある事が明らかになった。一方、樹状突起に優先的に局在する神経接着因子Dscamの局在には野生型とunc-51変異体とで変化はなく、微小菅の方向性についても、野生型とunc-51変異体とで相違は詰められなかった。以上の結果は、UNC-51が軸索輸送の制御に重要な機能を待つ事を明らかにするのみならず、キノコ体神経細胞をはじめとする様々な神経細胞においても、細胞内分子の輸送と神経突起形成に重要な機能を有していることを明らかにするものである。UNC-51はヒトやマウスにも保存されており、本研究結果は、unc-51が脳の神経回路形成に必須の機能を待つ事を示すものであり、ショウジョウバエにおけるunc-51依存的なシグナルカスケードの更なる分子遺伝学的解析によって、脳の形成と機能の理解に重要な手がかりを与えるものと期待される。
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