現在までに、ショウジョウバエなどのモデル生物については、その形作りについての遺伝子レベルでの理解が著しく進んできた。その結果、Hox遺伝子や主要なシグナル伝達系などは生物種間で非常によく保存されており、様々な生物種は、遺伝子レベルでみればそれほど違いはないことがわかってきた。しかし一方で、地球上に存在する様々な生物種は、それぞれ変化に富む多種多様な形態を有することで、それぞれの生活環境に適応している。生物共通の基本的メカニズムについての研究が高い注目を集め著しい理解の向上を果たす一方で、様々な生物種の多様性やその進化に関する遺伝子レベルでの研究はそれほど進んでおらず、これからの生物学おける重要な課題の一つである。 本研究は、昆虫の形態の中でも付属肢、特に歩脚に着目して、その発生メカニズムの様々な昆虫種間での比較により、付属肢の進化・多様化の分子メカニズムの理解を目指すものである。 2009年度は、昨年度に引き続き、主にコクヌストモドキやカイコガについて、ショウジョウバエ成虫肢形成に重要であることがわかっている遺伝子の発現パターンの解析を試みた。また、前年度で抗体染色の方がin situハイブリダイゼーションによるRNAの発現解析よりも組織染色の可能性が高かったことから、ショウジョウバエで付属肢形成に関与する遺伝子産物に対して、種間で保存されている部分のペプチドを作成し、それを抗原とすることで、様々な昆虫種で使用可能な抗体を作成した。しかし、クチクラに覆われている幼虫肢の組織染色は難しく、ソニケーションやキチナーゼの利用によってクチクラの透過性を上げる試みなどを繰り返しているが、相変わらず難航している。今後も、これらの抗体を用いた染色とともに、in situハイブリダイゼーションによる染色の実験系を早急に確立し、各種肢形成過程に重要な遺伝子の発現パターンの解析を行う予定である。
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