研究課題
脊椎動物の心臓は、魚類(一心房一心室)から鳥類・哺乳類(二心房二心室)にわたって、その生活環境の変化に伴いより高次な形態を持つようになった.特に爬虫類は不完全な心室中隔を持つカメ類から二心室を持つワニ類まで多様性があり、心室中隔が進化的にどのように派生してきたか知る上で非常に重要な動物である。そとで、カメ目としてアカミミガメ、有鱗目としてグリーンアノールに着目し、心臓形態の詳細な観察を行った。その結果、アカミミガメでは発生後期に心室中隔様の心室壁の肥厚が形成されるのに対し、グリーンアノールではそのような構造は認められなかった。このカメ胚における心室壁の肥厚が心室中隔なのかどうか調べるために、アカミミガメ、グリーンアノールからBmp10遺伝子を単離し、その発現を観察した所、アカミミガメでは心室壁の肥厚部分でBmp10の発現が消失するが、グリーンアノールでは心室一様にBmp10が発現する事が確認できた。この結果はカメ胚の心室壁の肥厚が中隔である可能性を強く示唆する。平成20年度に行った実験から、アノールでは発生初期・後期を通じてTbx5遺伝子が心室全体に発現しているが、カメ胚では発生初期こそ心室全体にTbx5が発現しているものの発生後期になると鳥類・哺乳類同様左心室に局在した発現示す事が明らかになった。このTbx5の発現様式の違いが心室中隔形成とどのように関連しているのか、マウスでTbx5を異所的に強制発現させ、アノール様の発現パターンを取らせた時の心室形態を観察した。その結果、心室中隔の形成が阻害され、アノール同様、単心室の心臓が形成された。一連の実験の結果は心室中隔形成メカニズムにおいて特定の遺伝子の発現パターンが重要であるという、新しい概念をもたらした。この研究成果は世界的な科学ジャーナル誌であるネイチャーに掲載され、掲載号の表紙としても取り上げられた。
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Nature 461
ページ: 95-99