脊椎動物の心臓は、魚類(一心房一心室)から鳥類・哺乳類(二心房二心室)へと、生活環境の変化に伴いより高次な形態を持つようになった。特に爬虫類は不完全な心室中隔を持つカメ類から二心室を持つワニ類まで多様性があり、心室中隔が進化的にどのように派生してきたか知る上で非常に重要な動物である。そこで、アカミミガメとグリーンアノールの心臓形態を詳細に比較した所、アカミミガメでは発生後期に心室中隔様の心室壁の肥厚が形成されるのに対し、グリーンアノールではそのような構造は認められないことが明らかとなった。このような違いをもたらす要因として、Tbx5遺伝子の発現様式の違いが考えられ、マウスを用いて検証した所、左心室に局在したTbx5の発現が心室中隔形成に重要であることが明らかとなった。これは一つの遺伝子の発現様式が進化過程で変化することにより、心臓形態を変化させていったという、心臓進化に関わる新たな知見をもたらした。今年度は心房中隔に着目して研究を進めた。心房中隔は魚類から両生類に進化する過程で獲得され、両生類は魚類の中の肉鰭類(肺魚・シーラカンス)から進化した。そこで、ゼノパス、肺魚・シーラカンス、古代魚のポリプテルスの心臓形態をマイクロCT、MRI、EFICなどの手法を用いて3次元的に観察した。その結果、肺魚の心臓には部分的な心房中隔が存在することが明らかとなり、幼生を用いることのできるオーストラリア肺魚を用いて、肺魚の心臓発生過程と、心臓主要因子の発現様式を調べている所である。この研究により、心房中隔をもたらした新たな分子メカニズムが明らかになることが期待される。
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