本研究は、ヒトの前立腺と同様な役割を果たす器官と考えられている、ショウジョウバエの附属腺(accessory gland)における、特異な二核細胞集団の発生機構解明に焦点をあてたものである。 昨年度までの研究において、附属腺の二核細胞集団が、少数の二核細胞の増殖により生まれるのでなく、通常存在する一核の増殖細胞集団が、最終細胞周期における細胞質分裂を放棄することによって生じること、およびそれが明確な同調性をもって一斉に生じることが明らかとなっていた。また、一方でこの同調性には局所的な傾向があり、まず、附属腺上皮を構成するmain cellと2ndary cellとの間で同調性がずれ、そしてmain cell集団のPD軸に沿った位置における同調性がずれることなども認められていた。さらに、2核化を起こす際の核分裂は通常の細胞分裂の際の核分裂とは極性が90°異なること、また、分裂後期(Anaphase)に分配されつつある染色体群の間に生じるべき中央紡錘体(central spindle)の形成が不全であることも判明していた。 当該年度は、これらの特徴をさらに検証し、核分裂の極性転換については、2核化の主要な要因を担っているものではなく単なる付随現象であること、中央紡錘体の形成についてはそれの強化によって細胞質分裂の特徴が増強されることから、主要な良い員であることが明らかとなった。さらに、この中央紡錘体形成不全を導く因子の探索を行ったところ、従来知られていなかった微小管結合因子のひとつが、その役割を果たす可能性について検証することができた。この因子を除去すると、野生型よりも細胞質分裂の特徴が明確化され、またこの因子を異所的に強制発現すると、2核化を導くことができることなどが明らかとなった。
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