研究課題/領域番号 |
20570202
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
安達 卓 学習院大学, 理学部, 教授 (20221723)
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キーワード | 遺伝学 / 細胞・組織 / 発生・分化 / 細胞質分裂 / ショウジョウバエ |
研究概要 |
本研究では、ヒトの前立腺と同様な役割を果たす器官と考えられている、ショウジョウバエの附属腺(accessory gland)における、特異な二核細胞集団の発生機構解明に焦点をあてている。応募者らは、ショウジョウバエ附属腺の二核細胞集団が、少数の二核細胞からの増殖により生まれるのではなく、通常認められる一核細胞集団が、同調化した細胞周期制御と、最終細胞周期の細胞質分裂の放棄を見せることによって一斉に起きることを明らかにしてきた。本研究ではさらに、この二核化がどのような因子の働きによって生じてくるのか、及び二核細胞集団の存在意義が何かを明らかにすることを目的としている。本年度の研究実施計画としては、ショウジョウバエ附属腺における二核化のメカニズムを探るために、以下の研究を行った。 1.附属腺の細胞質分裂停止に影響する因子として昨年度までに同定したものの機能解析を更に進めた。その結果、Mud/NuMAに関連する新規因子が中央紡錘体の不安定化を介して二核化を進めていることがわかった。 2.附属腺の二核細胞集団の中では、特定の細胞が萎縮して貪食されたり、上皮の頂端側に追い出されたりする特殊な姿を見せる時がある。これはアポトーシスに代わる異常/老化細胞の消化機構と予想され、それらを調節する細胞間シグナル、およびそれらの目的について、昨年度に引き続いて研究を進めた。その結果、NotchやJAK-STATなどのシグナルが複合的に介在していることがわかった。 3.附属腺細胞における二核化の意義を知るために、インスリン依存的な細胞成長と二核化との関係を昨年度に引き続いて研究した。その結果、附属腺細胞は、他の細胞種と比べてもより効果的にインシュリンの影響を受けて成長することがわかったが、それと二核化との間には因果関係はないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
有能な協力者や大学院生の活躍のおかげで、これまでの研究は期待以上に順調に進んできた。附属腺細胞の二核化を制御する因子を複数同定したが、その中には細胞質分裂を制御する因子として従来知られなかった新しい型の分子も含まれ、この成果は、同様の分子が進化的に保存されている哺乳類など他の生物の細胞質分裂の研究分野においても、今後インパクトを与えられると思われる。また、二核化の目的が遺伝子発現調節にあるのではないかという事前の予測に反し、二核の空間的配置変化を伴った細胞のサイズ調節に起因する臓器全体のサイズ調節、という予想外の事実を証明できた。似たような臓器サイズ調節機構は他の生物にも存在する可能性があり、今後の探求課題である。さらに、異なった路線の研究として、分化細胞に共通した細胞死耐性獲得のメカニズムの探索、分化細胞老化に伴う細胞排除の分子メカニズム解明、細胞形態突然変異体の誘発によるM期制御因子の新規突然変異体分離など、その研究内容は予想外と言えるほどに豊かに発展できたという印象を抱いている
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今後の研究の推進方策 |
今までの研究は非常に順調に進み、あとは論文の順調な出版が大事な目標である。反省点としては、ここまでの研究成果がやや深入りしている感があり、部外者から見ればいずれも理解が困難なことが想像に難くなく、これをいかに平易に理解させて、受け入れてもらうかが重要なポイントであると考えられる。研究自体の発展の方向としては次のような路線が考えられる。新規に発見した二核化促進因子については、それと相互作用する細胞質因子を、生化学的および遺伝学的に同定することが一つの方向性であり、抑圧・増強突然変異体については、既にそのスクリーニングを開始している。細胞死耐性の獲得機構については、そのメカニズムの普遍性を検証することが興味深く、分化細胞に起きることがある癌化の機構の普遍性とも関連すると考えられる。老化細胞の排除機構については研究例はまだ多くなく、ここで明らかにした複合シグナル系活性化の意義を様々な分化細胞種においても追試する必要があると考えられる。
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