本研究課題では、イネin vitro受精系を用いることで、受精によりイネ受精卵中で発現が誘導され、かつ、イネ受精卵中の頂端部または基部に極性分布しているmRNAをマクロアレイ解析で網羅的に同定し、それらmRNAの受精卵中における細胞内局在機構を明らかにすることで、植物の胚発生過程の最初におこる細胞分化の機構の一端を明らかにすることを主な自的とした。また、細胞内における物質輸送に深く関与しているアクチン繊維および微小管を蛍光タンパク質で可視化した形質転換植物を作製し、それらの配偶子をin vitro受精させることで、受精卵の極性形成過程における細胞骨格の動態を明らかにすることも研究目的の一環とした。 イネ卵細胞、受精卵、2細胞胚、頂端細胞、基部細胞を用いて1細胞・胚からcDNAを合成・増幅し、そのcDNAをテンプレートとしてcRNAプローブを作製しマイクロアレイ解析を行った。その結果、受精卵頂端部または基部に局在すると推定されたmRNAをコードする候補遺伝子を10程度同定したが、アレイデータのノイズが大きいのが候補遺伝数を増やせない原因であったことから、cDNAを合成・増幅過程を改変することで、よりノイズの小さいアレイデータを得ることで、候補遺伝子数を増やす予定である。また、受精卵の極性形成に関与すると推定される細胞骨格(アクチン繊維)を蛍光タンパク質により可視化する目的で、 AtFimbABD2-GFPを発現する形質転換イネ作製を作成した。しかしながら、根の表皮細胞等ではアクチン繊維の可視化が確認できたが、卵細胞および受精卵中ではAtFimbABD2-GFP自体の蛍光が観察されなかった。このことは、プロモーターを卵細胞高発現プロモーターに置換した形質転換体の必要性が示している。
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