研究概要 |
a)鳥類胚前腸形成と領域化に関わる分子機構 内胚葉の領域化は,後方中胚葉から発現するいくつかの分泌因子が,前後軸に沿って勾配をつくって分布し,接触している内胚葉に影響を与えることで起こることが分かっている.しかし,内胚葉領域化は細胞が移動しながら起こること,特に前腸では比較的狭い範囲から短時間でさまざまな領域が成立することなどから,それに加えて内胚葉側の因子の存在が示唆されている.そこで初期内胚葉に領域特異的に発現する遺伝子群を単離した.その一つであるAPOA1遺伝子は始め内胚葉全体で発現するが,そのうち肝臓領域に限局した.そこでAPOA1を肝臓以外の内胚葉に発現させたところ,初期肝臓マーカーを誘導した,このことからAPOA1は肝臓誘導に関わっていると考えられる.APOA1はアポリポタンパク質の1つで,今までコレステロール代謝に関わる因子として知られているが,発生初期における機能は全く報告されていない.今後APOA1がどのような分子機構で肝臓形成に関わるのかを明らかにすることで,脂質代謝遺伝子の全く新しい機能を明らかにできるものと考えられる. b)内胚葉領域化における境界形成の分子機構 領域化した内胚葉はその後、器官形成を行うが,出来上がった器官は隣り合う器官と明確な境界を持っている.ある器官の境界では,内胚葉領域化のときに発現する遺伝子がそのまま境界を作って発現していることが分かっている.このことから,器官境界形成に内胚葉領域化遺伝子が関わっている可能性が考えられる.そこで胃/小腸境界形成にそれぞれの領域形成に必要な転写因子Sox2とCdxAの関係を調べた.Sox2をCdxA発現域に発現させたところ, CdxAの発現が抑えられることが分かった.このことから,実際の器官境界ができる前に,すでに転写因子間の抑制作用によって,境界形成が行われている可能性が示唆される.
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