ヒトやマウスの嗅覚神経系は、嗅覚受容体(odorant receptor: OR)によって数十万もの匂い分子を識別している。OR遺伝子はゲノム上最大の遺伝子ファミリーを形成する多重遺伝子であり、その総数はマウスにおいて約千個に及び、全遺伝子の4%を占める。嗅神経細胞におけるOR遺伝子の発現は、免疫系の抗原受容体遺伝子と同様に、1つの細胞で1種類の遺伝子が、対立遺伝子の一方からのみ発現するという極めて興味深い発現様式をとる。しかしながら、その遺伝子発現制御機構は明らかになっていない。嗅覚受容体多重遺伝子ファミリーは、大きく分けて2つのタイプ(魚類様遺伝子:クラス1、陸生動物特異的遺伝子:クラス2)に分類される。これまでの研究において、転写因子Lhx2の有無によって、クラス1およびクラス2OR遺伝子の発現が異なることから、クラス1とクラス2遺伝子はそれぞれ異なる遺伝子発現制御機構/経路をもっていることが示唆されている。本研究課題では、クラス1に属するOR遺伝子の遺伝子発現制御機構の解明に取り組んでいる。これまでに18個のクラス1OR遺伝子をクローニングし、その転写開始点を同定した。上流配列の解析をおこなっているが、クラス2遺伝子の転写開始点の上流配列にみられる特徴的なモチーフ配列は同定できなかった。このことからクラス1と2の遺伝子発現制御領域はことなる構造を有するものと考えられる。
|