平成20年度の研究により、原腸胚の中胚葉形成領域では、NodalシグナルおよびNodalシグナルに誘導されるNotchシグナルの下流でOct25およびp27Xic1が発現し、中胚葉形成細胞の発生運命が制御されることが示唆された。しかしOct25はXbraの転写の活性化ばかりでなく不活性化も引き起こすことから、中胚葉形成におけるOct25の役割には不明な点が残されている。また原腸胚初期のOct25の発現が予定中胚葉領域に局在する機構もわかっていない。そこで平成21年度では、Oct25の転写制御と機能制御を明らかにするために以下の実験を行った。 1.予定中胚葉領域に発現するOct25の転写制御機構の解析 Oct25の転写制御機構を調べるために、Oct25遺伝子の5'上流域5kbpをルシフェラーゼに繋いだレポーター遺伝子を構築し、原腸胚期におけるOct25遺伝子の発現に必須のシス配列を解析した。その結果、5'上流域のプロモーター領域に存在するFAST結合モチーフを介したNodalシグナルが原腸胚期の遺伝子発現に必須であることがわかった。これはOct25が予定中胚葉領域において発現する分子機構の一つと考えられる。 2.Oct25の分化制御機構の解析 Oct25のノックダウン実験は中胚葉形成にOct25が必須であることを示したが、Oct25の過剰発現においても中胚葉の形成阻害が誘導された。Oct25過剰発現胚における中胚葉形成阻害の過程を詳細に検討した結果、Oct25はp27Xic1の発現を抑制することにより、予定中胚葉細胞を細胞周期の分裂相に止め、結果として細胞分化を阻害することがわかった。Oct25は予定中胚葉領域の細胞の多能性を維持することにより、細胞数の制御に関わる可能性が考えられる。
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