研究概要 |
脊椎動物の体節の規則正しい繰り返しパターンは、体節を形成する未分節中胚葉に内在する分子時計に依存している。分子時計にはNotchシグナリングが関わっている。マウス胚の未分節中胚葉には、Delta-like1 (Dll1), Delta-like3 (Dll3)の2種類のNotchリガンドが発現しているが、それらの機能的な差異についてはほとんどわかっていない。マウスでは遺伝子ターゲティングによるノックアウトマウスの解析から、Dll1とDll3は異なる機能をもつことが示唆されている。そこで、我々はマウス胚において、Dll1とDll3の遺伝子を置換し、Dll1の代わりにDll3を発現するノックインマウスを作製し、体節形成及び分子時計の振動を含む遺伝子発現パターンに対する影響を解析した。その結果、Dll3ノックインマウスのホモ胚では分子時計の振動および体節形成は回復しないことから、体節形成においてDll3はDll1の機能を代替しないことがわかった。また、Dll3を過剰に発現するヘテロ胚では、体節形成はほとんど正常にみえるが、骨格標本を詳細に観察した結果、頸椎の神経弓が部分的に欠損していることがわかった。さらに頸椎領域の体節において、神経弓の形成を指定するホメオボックス遺伝子Uncx4.1の発現が低下していることがわかった。Uncx4.1の発現はNotchシグナリングの下流にあると考えられることから、この結果は生化学的研究で提唱されたようにDll3はむしろNotchシグナリングの負の制御因子として働いている可能性を示唆するものである。 またこのDll3ノックインマウスのホモ胚では、Dll1ノックアウトマウスと同様に体節形成は起こらないが、脊椎骨のうち椎体部分には分節化がみられることから、椎体の分節化にはNotchシグナリングの振動による周期性とは別のメカニズムが関与していると考えられた。
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