本研究の目的は、心臓・血管発生に特異的な異常を示すゼブラフィッシュ変異体の病態解析および原因遺伝子の同定を行うことにより、循環器系の発生過程を制御する分子の実体およびその機能を明らかにすることである。ko095変異体は、体幹部の節間血管が神経管の近傍で分岐する表現型を示す。このko095変異体では、血管発生の鍵分子である血管内皮細胞増殖因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)の発現が増強し、血管のリモデリングの亢進が認められた。このko095変異体の原因遺伝子は、タンパク質合成に必須の役割を担うSars(Seryl-tRNA synthetase)であった。Sarsは、タンパク質合成を司る酵素としての機能に加えて、血管発生を制御していると考えられた。一方、ko157変異体は、体節形成期に体の両側に位置する心臓前駆細胞の正中線方向への移動に異常が認められ、二股心臓の表現型を示した。このko157変異体の原因遺伝子は、12回膜貫通領域を持つ新規の膜分子Spns2(Spinster-like 2)であった。生化学的な解析から、Spns2が脂質メディエーターであるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の輸送体として機能していることが明らかとなった。本研究において、血管および心臓発生に異常を示すko095変異体およびko157変異体の機能解析から、Sarsが血管発生の新たな制御因子であること、また、Spns2がS1Pの輸送体として働くことにより心臓発生を制御していることを明らかとした。
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