動物進化の過程ではボディープランがほとんど変化しないまま、そのボディープランを作るための遺伝的仕組みが大きく変化することがある。私は節足動物門の体節形成が、そのような実質的には形態に表れない遺伝的変化を理解するためのよいモデルになると考え、実験材料として利点の多い、鋏角類のオオヒメグモを用いて研究を行った。詳細な遺伝子発現の解析から、胚の前端領域(予定頭部領域)でも、胚の後端領域(尾葉とよぶ)で起こるような逐次増加型の体節形成が起こっていることが明らかになったために、本年度は予定頭部領域における体節形成の解析に集中した。頭部領域のパターン形成はヘッジホッグシグナルに支配されており、昨年度のマイクロアレイ解析において、ヘッジホッグシグナルの標的遺伝子の候補として15個程度の遺伝子が見出された。その中には、ショウジョウバエのギャップ様遺伝子オルソデンティクルとペアールール遺伝子オッドペアードのホモログが含まれていた。ヘッジホッグシグナルの標的候補となったほぼすべての遺伝子について、RNA干渉による表現型スクリーニングを行い、数個の遺伝子で発生異常を伴う表現型が得られたが、それらの表現型が遺伝子特異的な影響によるものかどうかは一部で未確認である。それでも、オルソデンティクルホモログとオッドペアードホモログの機能については詳細な解析を進め、オオヒメグモの頭部領域の体節形成に重要な役割を果たしていることが明らかになった。今後、その他の候補遺伝子についても解析を進め、オオヒメグモの頭部及び尾部の体節形成の仕組みを遺伝子ネットワークの働きとして理解し、形態の保守的な進化と発生プログラムの多様化の関係を探究したい。
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