研究概要 |
真核生物のスーパーグループの1つであるエクスカベートに属するフォルニケータ生物群は、ミトコンドリアをもたない寄生性および自由生活性の鞭毛虫(ディプロモナス、レトルタモナス、カルペディエモナスなど)から構成される。この生物群の系統進化を解明することは、ミトコンドリアの進化、真核生物の初期進化を探るうえで重要である。本課題では、フォルニケータ内部の関係やフォルニケータとパラバサリアの関係などを明らかにすることを目的として、フォルニケータ生物群に属す自由生活性の鞭毛虫を対象として、系統マーカー遺伝子の配列解析および複数遺伝子による分子系統樹の結合データ解析を進めてきた。本年度は先行研究によってフォルニケータ生物群のカルペディエモナスに形態的に類似していることが明らかとなったカルペディエモナス様生物、Dysnectes brevis,Kipferlia bialata(NY0166株およびNY0173株),および未記載NY0171株を対象に、チューブリンα,β鎖、細胞質型HSP70,RSP90、およびペプチド鎖伸長因子EF1α,EF2で配列データ未知のものについての遺伝子解析を行なった。これらデータをもとに、共同研究を行っている、海洋研究開発機構やカナダ・ダルハウジー大学のグループが遺伝子解析した他の生物種や未記載株のデータも含めて、複数遺伝子結合データの分子系統解析を行った。その結果、D.brevisが最もディプロモナス/レトルタモナスに近縁で、その外側にKipferlia bialataや従来レトルタモナス類に分類されていたChilomastix caulleryiが、さらにその外側に他のカルペディエモナス様生物が位置づけられるという可能性の高いことが明らかとなった。一方、複数遺伝子のデータ解析を行う際の方法論的問題点とその対策についても検討を行った。
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