研究概要 |
昨年度の結果に基づき、種特異的なマイクロRNAターゲットと種間で保存されたマイクロRNAターゲットの比較をおこなった。まず保存されたマイクロRNAターゲットについて、ヒト・マウスのゲノム配列とアノテーション情報に基づき、ヒト-マウスの確実なオルソログ5,169遺伝子について種間で保存されたマイクロRNAのターゲット配列を564種類のマイクロRNAを対象にして網羅的に39,260ヶ所同定した。また、比較のため、同じオルソログ遺伝子セットについて、保存された上流cis-エレメントを網羅的に予測同定した。この結果を元にマイクロRNA遺伝子族で構成される遺伝子制御網の特性を転写因子で構成される遺伝子制御網を比較対象として検討を行った。結果、マイクロRNA遺伝子族による遺伝子制御は制御回路の冗長性を有意に増加させているにもかかわらず、ターゲットとする遺伝子数を極めて有意に減少させていることが明らかになった。この結果は、マイクロRNA遺伝子族によって形成される遺伝子制御回路の多くは、必ずしも有益ではなく、せめても冗長性を高めるというノイズとなり難い受動的な役割で進化的に存続しているという可能性を示唆し得る。また、種間の保存を考慮しない種特異的なマイクロRNAターゲット配列を網羅的に求めた解析の結果では、マイクロRNA遺伝子族がターゲットとする遺伝子数はランダムな予想値に近く、このことは、多くのマイクロRNA遺伝子が進化の過程で生成・消滅を繰り返しており、保存されていないマイクロRNAターゲットはこの過程を示している可能性を示唆する。種間の保存領域の情報を用いないマイクロRNAターゲット予測は疑陽性を多く含むと予測されるため、この点に対処する新たな方法の検討とオルソログ遺伝子セットの数を15,500遺伝子に増やし、対象とする種も増やすことにより、さらに検証を進めている。
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