研究概要 |
本研究は,第1の目的として,集団形成後30余年の歴史をもつ当研究所のマカクザル(ニホンザルとアカゲザル)繁殖コロニーにおいて,遺伝的多様性および集団の近交係数の経時的変化を明らかにし,飼育記録から推測される近親交配の影響との関連を調査し,第2の目的として,閉鎖集団に近い環境に生息する宮崎県幸島の野生ニホンザル集団について同様の調査を行い,ニホンザルにおいて初めて遺伝的多様性と適応度との関係を明らかにすることを計画している. 平成20年度は,当研究所のマカクザルコロニーの遺伝的多様性に関する現在の状況を調査した.ニホンザル嵐山群,若桜A群,若桜B群および高浜群,アカゲザルインド群および中国群を対象にして,15遺伝子座のマイクロサテライトDNA多型を分析した.マイクロサテライトの遺伝子座ごとに遺伝的多様性の指標を算出した後,各集団について平均ヘテロ接合率(He)を計算した.群間の遺伝的分化量を調べるため,FstおよびNeiの遺伝距離を算出した.その結果,分析したマイクロサテライト15遺伝子座の対立遺伝子数およびヘテロ接合率(he)は,ニホンザルにおいて3〜14個および0.534〜0.869,アカゲザルにおいて4〜12個および0.477〜0.855であった.各集団のHeは,ニホンザルにおいて0.598〜0.657,アカゲザルにおいて0.606および0.706であった.野生ニホンザルを対象とし,同様のマーカーセットを用いた庄武・山根(2002)の調査結果と比較したところ,当研究所のニホンザルおよびアカゲザルの各群は,ニホンザル野生群(日光群,波勝群,椿群など,0.559〜0.646)と同等の遺伝的多様性を保持していることが明らかになった.遺伝的分化の調査から,ニホンザル高浜群が他の群から分化している傾向が認められた.
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