研究概要 |
本年度は下顎神経の経路のうち,下顎神経が頭蓋腔を出る卵円孔付近の個体変異を検討した。マカク属のサルでは下顎神経は内頭蓋底で卵円孔を通って頭蓋腔を出た後,本来の卵円孔を通る後方の太い枝と翼状突起外側板を貫くpterygoalar foramen(PF)を通る前方の細い枝に分かれて外頭蓋底に出るとされている。従来の研究は少数例の剖出結果に基づき,個体差には言及していない。そこで,多数の頭蓋骨を観察することによりニホンザル下顎神経の頭蓋内経路の変異を検討した。第三大臼歯萌出後の頭蓋骨(オス89,メス84)を肉眼的に観察し,8個体を歯科用コーンビームCTにより観察した。卵円孔は,内頭蓋底では前半分は蝶形骨大翼,後半分は側頭骨錐体から成り,棘孔は存在しなかった。ヒト胎児では卵円孔の後壁は側頭骨から成り,ニホンザルの卵円孔はヒトの未熟な形態に相当すると思われる。外頭蓋底では卵円孔は蝶形骨翼状突起外側板(LP)の後端に位置し,その壁はLPが形成した。しかし,多くの個体でLPが形成する内側壁は不完全または欠如し,側頭骨錐体が内側壁を形成した。卵円孔の前方には翼状突起外側板を貫くPFが認められた。PFはヒトの翼棘孔に類似している。下顎神経の経路の変異は内頭蓋底では認められず,外頭蓋底に認められ,(1)卵円孔とPFの癒合と欠如,(2)卵円孔の二分,(3)複数のPF,の3型がみられた。外頭蓋底の開口部が1か所の場合,その孔は下外方に開口した。ヒトの卵円孔は下方に開口するので,変異型においてもニホンザルとヒトは異なる形態であった。
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