研究概要 |
霊長類の三叉神経の頭蓋内経路の変異を明らかにするために,チンパンジー,テナガザル,マントヒヒの頭蓋骨標本を観察した。これらの種は個体数が少ないため,成獣のみではなく幼若齢の個体を含めて観察した。眼神経の出口となる眼窩上縁の孔あるいは切痕はいずれの種も1~2箇所で大きな違いは認められなかった。上顎神経の出口となる眼窩下孔はマントヒヒでは5~8個と多数であったが,他の種では1~2個であった。下顎神経の出口となるオトガイ孔はマントヒヒでは5~8個と多数であったが,他の種では1~2個であった。これまでに観察したマカク属の結果も眼窩下孔とオトガイ孔が多数見られる種はあるものの眼神経の出口に関しては個数が少ない傾向にあった。また,マカク属では眼窩下孔の数とオトガイ孔の数は必ずしも比例関係にはなく,眼窩下孔の方がオトガイ孔より個数が多いと考えられた。第三大臼歯萌出後のマントヒヒと乳歯列のチンパンジーで正円孔が二分する個体が認められた。CT画像を分析した結果,2個体ともに内頭蓋底では2個の孔が認められるが,翼口蓋窩に至る前に2つの管は癒合することが分かった。この正円孔の変異型は,分類群のまったく異なる種における変異のパターンが同じことから,ある種に特徴的に認められるというよりも,ある個体だけに偶発的に出現した変異と考えられる。第三大臼歯萌出後のシロテテナガザルでは,下顎孔が二分する個体が認められた。下顎孔の変異はサルの観察において始めて遭遇したものである。CT画像によって,2つの孔は下顎管に入るときに癒合するため,下顎管は1本となった。正円孔と下顎孔の二分はある種に系統的に認められる変異ではなく,ごく稀に認められる変異と考えられる。
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