最も重篤な細胞障害の一つであるDNA二重鎖切断は、ヒトにおいては主に非相同末端連結によって修復される。XLFとKuはこの経路においてDNA損傷の認識に関与している。最近、イノシトール6リン酸(IP6)が、Ku存在下でのXLFのDNA損傷認識能を著しく高めることが明らかになった。この観察は、IP6を介したDNA修復の制御という全く新しい細胞内情報伝達経路が存在することを強く示している。本研究では、XLFのDNA損傷認識機構を解析することを通して、このIP6を介した制御機構の詳細を明らかにすることを目標とする。本年度はまずXLF-KuによるDNA損傷認識の分子機構の詳細について検討を行った。XLFのDNA結合はDNAの長さに依存するという変わった性質があることが知られており、これを利用することで、XLFとKuはDNA上においてのみ相互作用するというユニークな特徴を証明してきた。同じ実験系を用いてマイクロモル濃度レベルのごく微量のIP6がXLF-Ku相互作用を著しく活性化することを示した。次にKuタンパク質のどのドメインがXLFとの相互作用に必要かについて検討した。Kuタンパク質はKu70ならびにKu80より構成されるヘテロ二量体であり、中央の二量体形成領域と各サブユニットのC末端領域の3つの構造単位から構成される。そこで各サブユニットのC末端を欠くKuタンパク質、両サブユニットのC末端を欠くKuタンパク質を作成し、XLFとの相互作用を検討した結果、XLFはKuの二量体形成領域に結合することを明らかにした。続いて様々なXLFの欠失体を作成し結合実験を行い、XLF中の10アミノ酸からなる領域がKuとの結合に必須であることを示した。さらに非相同末端連結反応全体に与える影響を検討するため、各種のDNA修復欠損株と相補株からの無細胞系の調製と、この反応系による機能解析を進めている。
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