研究概要 |
ツツジ属植物における葉緑体ゲノムの遺伝性について,(1)両親の葉緑体ゲノムの複製速度の違いにより決定されること,(2)F(種子親)×M,S(花粉親)のグループ間交配で得られる後代はほとんど母性遺伝となり,S(種子親)×M,F(花粉親)の交配では父性遺伝の頻度が高くなることが明らかとなっている.しかし,この複製速度がどのようなメカニズムで遺伝的に制御されているかは明らかになっていない.そこで,本研究では,ツツジ属植物における葉緑体DNA父性遺伝機構の解明を目的に以下の実験を行った.まず,S typeとしてオオヤマツツジ,F typeとしてオオシマツツジを用いた正逆交配で得られた実生についてPCR-SSCP法により葉緑体DNAの遺伝性を調査したところ,これまでの報告と同様にS×Fの交配における父性遺伝の頻度は,その逆交配(F×S)に比べ高かった.次に,前述のF1個体のうち,オオシマツツジ由来の葉緑体ゲノムを持つ個体を複数種子親に用いてF typeのタイワンヤマツツジと交配したところ,後代の父性遺伝の頻度は10%以下,90%以上,その中間と交配組合せにより分離した.以上の結果より,ツツジ属植物における葉緑体ゲノムの遺伝性は両親の複製速度の差異により決定されること,また,同じオオシマツツジ由来の葉緑体ゲノムを持っていても,核置換によって核のゲノム組成が変化すると後代の父性遺伝の頻度が分離したことから,葉緑体ゲノムの複製速度を制御する因子は種子親の核ゲノム内に存在することが強く示唆された.このことは,花粉親由来の葉緑体ゲノムが,受粉後の花柱内での花粉管伸長過程あるいは受精後の接合子内での胚発育過程において,種子親の核ゲノムから複製速度を制御され,抑制される場合は母性遺伝となり,抑制されないあるいは促進される場合は父性遺伝となる可能性を示唆している.
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