研究概要 |
本研究は,西日本暖温帯の広葉樹二次林で頻繁に出現するケネザサ(Pleioblastus pubescens Nakai)を対象として,異なる光環境条件に対するケネザサの順応メカニズムを稈と葉群の動態,および群落レベルでの生産特性から明らかにし,どのような環境条件でケネザサの群落が持続的な景観要素として望ましいか,あるいは刈り取りなどの管理を必要とするかについて基礎的な情報を提供することを目的としている。 本年度は,昨年度に引き続き,稈や葉の動態,個葉の光合成特性,および個葉の光ストレス応答に関する調査研究を実施した。その調査研究では,フィールドとして都市近郊二次林の林床で林冠層の構造の違いによって様々な光条件で成育するケネザサ群落を対象とするとともに,同様に異なる光条件を圃場で実験的に設定し,その実験群落も研究対象としている。フィールドでは,葉のフェノロジーを調べたところ,疎林などの明るい光条件ほど展葉期間が長く,一方で葉の寿命が短いことを明らかにした。明るい条件では,秋季から冬季にかけて落葉量が多く,それが寿命の違いをもたらしていた。光合成速度の測定では,疎林など明るい条件ほど成長季節の光合成速度が高いが,光合成速度の低下が早くから始まるのに対して,閉鎖林冠下では,成長季節の光合成速度は低いが,それを翌年の春まで長期間維持していることを明らかにした。個葉の蛍光反応を測定したところ,秋季から潜在量子収率が減少し始め,2月から3月に最小値を示し,その後増加した。その傾向は疎林などの明るい条件ほど顕著であるが,閉鎖林でも冬季に落葉する落葉広葉樹林で観察された。したがって,冬季に光強度が大きくなる立地では,低温のため光エネルギーが過剰となり,光ストレスを受けていることが明らかになった。これらの結果については,圃場の実験群落でも検証を継続している。
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