平成20年度は、屋上空間における生物の生息ポテンシャルを評価するために、ナミアゲハを指標として、「飛来状況」と「生存状況」を規定する環境要因を探ることを目的とし、緑地と多様な階層と屋上形態を持つ建物に着目し、大阪府立大学中百舌鳥キャンパス内(約25.9ha)を調査対象地とした。 まず、現況特性の調査として、建物、緑地などの空間特性と、地上部でのアゲハ類の出現状況を平成20年7月上旬から9月上旬で計10日(午前、午後)、ルートセンサス法を用いて把握した。次に、屋上空間におけるナミアゲハの飛来状況を把握するため、平成20年7月上旬から9月上旬の2ヶ月間、ナミアゲハの寄主植物であるミカンの苗木を植えたプランターを様々な階層、形態の屋上部に50地点、またそれに対応するように地上部の緑地、空地などに50地点、計100地点に設置し、おおむね1週間おきにミカンに付着した卵及び幼虫の数を記録した。さらに、屋上空間におけるナミアゲハの生存状況を把握するため、平成20年8月上旬から9月上旬の1ヶ月間、全調査ミカンの各プランターに10個体ずつ、計1000個体のナミアゲハの1齢幼虫を人為的に付着し、おおむね4日おきに寄主植物の葉や茎に付着した幼虫の数と成長(1齢〜5齢)を記録した。そして、生息ポテンシャルの評価要因として設定した「周辺環境」(各地点10m・20m圏域内のタイプ別緑地)、「連結環境」(階層、屋上側壁の有無、壁面への樹木の隣接状況)とナミアゲハの飛来状況及び生存状況との関係を解析した。 以上より、屋上部の生息ポテンシャルの評価要因としては、(1)屋上部におけるナミアゲハの産卵や幼虫の生存と階層との関係がみられたことから、地上からの高さが最も影響を与えていること、(2)屋上側壁の有無によって産卵数や幼虫の生存数に変化がみられたことから、屋上部の寄主植物の視認性の有無が影響していることが明らかとなった。
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