神奈川県の河川において、洪水防止のための河床浚渫工事により希少植物ミズキンバイの地域個体群の消失が危惧されており、そのミティゲーション事業の実施状況を整理し考察した。その結果、(1)ミズキンバイ保全への事業者の早く的確な判断、(2)以前からの対象種の生態的特性に関わる知見の蓄積、(3)地元住民やNPOも含めたステークホルダー間での対象河川のあるべき目標像の共有、(4)効果的な移植技術の手法開発、が本ミティグーション事業の特色であった。手法開発については、フトン籠を用いた植物移植ユニットを作成し、この移植ユニットごと河川に隣接する遊水地に移植する方法が選ばれた。これは、ミズキンバイは地中に茎根を複雑に分枝・混在させるため個体単位の移植は不可能であり、フトン籠を用いた移植ユニットにより初めて本種の移植が可能になった。この移植ユニットは、1m×1m×高さ0.5mのフトン籠で、内側にヤシガラマットを敷き、そこにミズキンバイの地下茎を土壌ごと入れたもので、計560個の移植ユニットが作成され、移植された。浚渫工事終了後は河州に再移植され、移植ユニットをそのまま設置することで洲の生育基盤となってきており、今後も増加させる計画であり、その生育状況を今後モニタリングする予定である。 また、ミズキンバイおよび光を巡る競合植物と考えられるオオイヌタデとヒメガマの各群落について、層別刈り取り法によりその生産構造を把握し、光を巡る競争を通じた本河川でのミズキンバイ群落の消長のメカニズムについて考察した。
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