研究概要 |
病原性の異なる2系統のファイトプラズマ(Phytoplasma asteris OY-M strain(弱毒株)およびPhytoplasma astehs OY-W strain(強毒株))の比較ゲノム解析を進めた。ファイトプラズマはF型ATP合成酵素遺伝子など重要な代謝系遺伝子を失っており、特殊な退行的進化を遂げた生物であることが示唆されている(Oshima et al., Nat. Genet., 2004)。一方、ゲノム中には重複遺伝子が多く見出され、dnaB, dnaG, ssb等が遺伝子クラスターを形成して複数コピー存在していた。この遺伝子クラスター内には転移酵素をコードするtra5遺伝子が存在しており、転移性遺伝子クラスターとしてゲノム内を転移してきたと考えられた。次に、OY-Wの転移性遺伝子クラスター周辺領域をクローン化し、全ゲノム配列が解読されているOY-Mと比較した。解糖系遺伝子群下流のゲノム領域を調べたところ、機能未知遺伝子であるPAM310ホモログのコード領域内に転移性遺伝子クラスターが挿入され、当該遺伝子が破壊されていた。転移性遺伝子クラスターの生物学的な役割には未だ不明な点が多く残されているが、遺伝子破壊を引き起こすことでゲノムの多様陸を増大させる効果があるのではないかと考えられた。 次に、OY-Mと近縁なAYWBファイトプラズマ(Baietal., J. Bacteriol., 2006)との比較解析を行い、地理的に隔離された両者のゲノムにおける可塑性と保存性を調べた。まず、両ゲノムのGC-skew値を調べたところ、他のグラム陽性細菌と異なり、ゲノム全域にわたって不規則であり、ゲノムの再編成が頻繁に起こった痕跡を示唆した。また、両strain間におけるオーソログ遺伝子の構成を比較したところ、並び方の保存されていない約300kbpのゲノム領域が認められた。この領域にはdnaB, dnaG, tmk等よりなる遺伝子クラスターが多数存在し、これらがゲノムの多様性を生み出す原因の一つである可能性が示唆された。
|