VPgはピコルナウイルスのゲノムRNAの5'末端に共有結合している蛋白質で、通常のmRNAの5'末端に位置するcap構造とは異なり、ウイルスゲノムの翻訳開始に関与しているとは考えられていなかった。一方、eIF4EのisoformであるeIF(iso)4EはeIF4Eと同様に、宿主植物細胞由来のmRNAのcap構造を認識して、リボソームを誘導し翻訳開始の起点となる役割を担っていることが知られていた。 翻訳開始におけるVPgとeIF(iso)4Eの相互作用の役割については、二つの可能性が考えられる。ウイルス1粒子の複製には約3000分子の外殻蛋白質と1分子のVPgが必要であり、ウイルスの複製には毎回約(3000-1)分子のVPgが余剰となる。つまり、第一の可能性としては、ウイルスの複製の際に余剰に生じたVPgがeIF(iso)4Eと結合することにより、宿主細胞内のmRNAのキャップ構造との結合を阻害して蛋白質の生合成を停止し、病原性を発揮することが第一の可能性として考えられる。また、第二の可能性としては、ウイルス感染初期段階でのウイルスゲノムRNAの翻訳開始機構へのVPgのcap構造mimicとして直接的な関与である。 これらの可能性について検証を行い、VPgがモデル植物であるシロイヌナズナのeIF(iso)4Eに結合し、さらに翻訳開始複合体の土台であるeIF(iso)4Gとの三者複合体を形成できること、またeIF(iso)4Eと宿主mRNAとの結合を阻害して、ウイルスの増殖を有利に導くことを発見した。さらに詳細な反応速度論の解析により、このVPgとeIF(iso)4Eとの結合が、ウイルスゲノムRNAのIRESと宿主の翻訳開始因子との結合を安定化させ、さらにウイルス粒子が細胞への感染後に脱殻した際には、VPgが付加した状態でウイルスRNAゲノムの直接的な翻訳に関与することも明らかにした。 今年度はVPgの結晶化の検討とウイルスゲノムRNAの翻訳へのVPgの直接的関与の検討に絞って検討を進めたが、残念ながら、芳しい結果を得ることは出来なかった。しかしながら、本研究課題の進行上から得られた技術および知見により学会発表を行ったので併せて報告させていただきたい。
|