タバコモザイクウイルス(TMV)抵抗性に果たすタバコMAPK、WIPKとSIPKの役割を明らかにするための第一歩として、本年度はこれらMAPKの発現を抑制した形質転換タバコを用いて、TMVの増殖とTMVの全身移行に及ぼすMAPK抑制の影響を調査した。まず、WIPKとSIPKの発現がそれぞれ単独もしくは両方抑制されたタバコの葉にTMVを接種し、接種葉に形成された壊死病斑の直径を測定するとともに、接種葉におけるTMVの量をノーザン解析により調べた。その結果、ベクターのみを導入したコントロール植物と比較して、両方抑制された系統では小さなサイズの壊死病斑の形成が確認された。この抑制体では、病斑サイズの減少と相関してTMVの蓄積量も減少していた。一方、各MAPKが単独で抑制された系統における壊死病斑のサイズとTMV量はコントロールと同程度であった。次に、各発現抑制体の葉にTMVを接種し、TMV抵抗性遺伝子N非許容温度20度で培養、未接種上位葉における壊死病斑形成の有無を調べた。単独及び両方抑制のいずれの系統においても、未接種上位葉における壊死病斑の形成が認められた。また、このsystemic病斑を形成した葉にはTMVが存在することをノーザン解析により確認した。そのようなsystemic病斑はコントロール植物では全く形成されなかった。これらの結果は、野生型タバコにおいて、WIPKとSIPKは接種葉におけるTMVの増殖を高める一方、TMVの全身移行を抑制する働きをしていることを示唆する。なお、このTMV増殖のおけるWIPKとSIPKの機能はredundantであると考えられる。上記解析とは別に、これらMAPKが関与するTMV抵抗性にサリチル酸が介在するか否かを明らかにするための実験に用いる予定のサリチル酸低含量WIPK/SIPK抑制タバコの作出にも取り掛かった。また、TMV増殖におけるWIPKとSIPKの必要性の有無を調べるための実験を行うために、N遺伝子非含有タバコを用いたWIPK/SIPK抑制系統の作出に取り掛かった。
|